「散骨」は、お墓を建てずに、粉末状にした遺骨を海や山に撒くという新しい葬法です。さまざまな理由で散骨が注目を集めていますが、その実施率は3%にも及ばないと言われています。認知はされているもののその実態を詳しく知られていない散骨。この記事では散骨がどのように行われるのか、その基礎知識をお伝えいたします。
目次
散骨とは
散骨とは、遺骨を海や山に撒く葬法のことです。1991年に「葬送の自由をすすめる会」が第一回目の海洋散骨を相模湾で実施。大きな話題を呼んだと同時に、散骨の是非が問われました。このときに当時の法務省は「節度を持って行われる限り問題はない」という見解を出し、これが今現在まで続く散骨実施の際の拠り所となっています。
この「節度」は、解釈によってはいかようにも受け取れますが、刑法や埋葬などに関連する既存の法律に抵触しない限り、違法とはなりません。法規制がない上に一定のニーズがあることから、続々と散骨業者が登場し、徐々に社会に認知されるようになったのです。
全優石の調査結果 認知は8割 実施は2~3%
全国約300の石材店で構成される「一般社団法人全国優良石材店の会」(以下:全優石)が2020年に行ったアンケート調査によりますと、散骨の一般認知度は87%、実施率は2~3%だそうです。まだまだマイノリティとはいえ、高い認知度と、一定数のニーズがあることがわかります。
また、「自分自身の遺骨を散骨にしてほしい」という問いに対して約4割の人が反対したのに対して、「家族が散骨を希望するなら賛成する」と答えた人は約5割に及びました。亡き人の遺志を尊重してあげたいという心理が読み取れます。これまで家単位で行われていた供養の個人化が進んでいる証といえるでしょう。
散骨の理由
散骨を希望する人たちは、どのような想いを持っているのでしょうか。その理由を考えます。
どうせ墓じまいするのだから、はじめからお墓は作らない
あととりがいない人や単身者の場合、仮にお墓を作ったとしても次の世代への承継は困難です。納骨堂や樹木葬も広い意味ではお墓なので、お墓を所有してしまうといつかは墓じまいや改葬をしなければなりません。だったらはじめからお墓のないスタイルにしようということで、散骨が選ばれています。
大自然に還りたい、還したいという人々の想い
大自然に還りたい、還したいと願う人が散骨を選びます。自然回帰を望む声は何も日本国内だけでなく、世界中で見られる人間の習性で、そのニーズに対して現代的な方法で応えたのが散骨と言えるでしょう。ただし、墓石だと土に還らないと考えている人がいますが、事実ではありません。骨壷のまま遺骨をカロートの中に並べますが、最終的には土の中に還してあげられるよう、カロートそのものも作られています。
古臭いお墓に入るのはいやだ
旧態依然の墓石をいやがって散骨を選ぶ人も多いようです。伝統的な墓石の形が、むかしながらの家族制度を思い起こさせるのかもしれません。
お金がない
単純に散骨では他の方法よりも費用を安く抑えられます。散骨の相場は安くても数万円、船を一隻チャーターしても30万円程度です。実際に墓石を建てようとすると200万円近く、納骨堂や樹木葬でも、なにかしらの施設を必要とするため数十万円の費用がかかります。
お寺とのつながりがいやだ
安く済ませるためにはお寺の永代供養という方法もあります。しかし、そもそもお寺との付き合いがいやだという人も多く、その受け皿のひとつとして散骨を選ばれています。
散骨は、必ず遺骨を粉末状にしなければならない
散骨をするために、火葬を終えた焼骨を粉末状にしなければなりません。焼骨のまま散骨をしてしまうと、刑法第190条の遺体損壊の罪に問われるからです。遺骨を粉末状にすることではじめて、法律に抵触せず、かつ法務省が見解をしました「節度」が保たれるのです。
遺骨を粉末状にすることを「粉骨」と呼びます。散骨業者が請け負ってくれるだけでなく、粉骨だけをしてくれる専門業者もあります。
法規制なき埋葬のリスクと懸念
さて、さきほどからとりあげているように、散骨は合法でも違法でもない、いわゆる「グレー」で、現在行われている散骨はこのあいまいな法解釈の領域内で行われています。散骨を取り締まる法律は未だありませんが、日本全国を見渡すと、条例やガイドラインを策定した自治体はいくつもあります。そこではやはり、地域住民の散骨に対しての生理的な嫌悪感、風評被害や環境汚染への懸念が見て取れます。
北海道長沼町の例
自治体による散骨規制の代表的な例は北海道長沼町です。とあるNPO法人が開設した「ホロナイ樹木葬森林公園」が届出を行っていなかったこと、さらには周辺住民に事前に何の説明もなかったことなどから反対運動が沸き起こりました。運営側の一方的な方針に加え、「地下水が飲めない」「農産物への風評被害が心配」などの声も叫ばれました。反対運動では7000人もの署名が集まり、長沼町は「さわかや環境作り条例」を発足、墓地以外の場所での焼骨の散布を禁止したのです。
静岡県熱海市の例
散骨の多くは海で行われています。地権の問題がないこと、周辺に人がいないことなどから、散骨をしやすい環境だからです。しかし、熱海市は海水浴客をはじめとした観光業で成り立っていることに加え、漁業も盛んで、地域の住民は散骨による風評被害を恐れました。そのため、熱海市は2015年に「熱海市海洋散骨事業ガイドライン」を策定し、散骨事業にさまざまな制限をかけたのです。
全優石の推測では、散骨の実施率は近い将来では現在の10倍もの数に達するかもしれないとしています。個別に手を合わすためのお墓を持たず、埋葬をしない散骨。この記事では世相的背景や法律との関わり合いの点から見てきましたが、実際に散骨をするとどのようなことが起こりうるのは、次の記事でくわしく綴ってまいります。墓守の会は、散骨を断固反対いたします。礼拝と埋葬の大切さも、あわせてお伝えしてまいります。