平成に入り、樹木葬や納骨堂などの、新しい形のお墓が登場しました。ライフスタイルが多様化するのにあわせて、お墓の形もさまざまに多様化しているのです。「お墓」ということばを聞くと、私たちは当たり前のように石でできたお墓、つまり墓石のことを連想しますが、この世界には木のお墓や土のお墓など、さまざまなお墓があります。
それでも私たちがお墓に石を選ぶのにはどんな理由があるのでしょうか。
目次
お墓は石だけにあらず 木のお墓や土のお墓もある
まずは「お墓」ということばを整理しておきます。『広辞苑』にはまずはじめに「死者の遺骸や遺骨を葬った所」と記載されており、2番目に「墓碑・墓石」としています。つまり、お墓は必ずしも石でなければならないわけではないのです。
世界にはさまざまなお墓の形があります。日本国内を見てもかつては土葬が主流でしたし、木でできた塔婆を墓碑とする地域もあります。
しかし、それでも私たちは石のお墓に立ち戻ります。樹木葬や納骨堂の中に納められた遺骨は、最後には永代供養塔(合祀墓などとも呼ばれます)に移されて土に還るのです。そして、この永代供養塔のほとんどは、石でできているのです。
まずはおさらい 樹木葬
樹木葬とは、樹木を墓碑にしたお墓のことです。樹木葬は主に「里山型」と「霊園型」の2つに分けられます。
里山型とは、自然の里山をお墓にする樹木葬。墓碑やカロートなどに石材や人工物を用いない、大自然をお墓とした樹木葬の理想型と言えます。ただ現実的には里山を「墓地」として都道府県知事に認めてもらわなければならない点、里山を必要とするために地方や郊外に限られる点、お参りや墓域の管理が困難などの理由から、広く普及しているとは言い難いでしょう。
一方、霊園型の樹木葬とは、都市型霊園の中に設けられた樹木葬区画です。遺骨はカロートの中に納められ、これまで石で作られていた墓碑を樹木としたものです。あととりやお参りの人がいなくなったら、カロートから骨壷を出し、最終的には永代供養墓へと埋葬されます。
まずはおさらい 納骨堂
納骨堂とは、建物の中に作られた納骨施設です。ロッカーの形や仏壇の形をした「納骨壇」が並び、その中に遺骨を納めます。最近では都心部を中心に「自動搬送型」なるものの登場し、注目を集めています。ただし、納骨堂に納められた遺骨も、最終的には永代供養墓へと移されて埋葬されます。お参りの人がいなくなったあとも、いつまでもその場に遺骨を置いておくわけにはいかないのです。
わたしたちは遺骨を土に還さなければならない
それが墓石であれ、樹木葬であれ、納骨堂であれ、最終的には遺骨は土に還されます。昨今のさまざまなお墓のほとんどは、骨壷のまま納められます。それは、お参りの人がいるうちはいいのですが、いなくなったあとに遺骨の場所を移さなければならないからです。
あととりがいなくなった納骨壇の中にずっと遺骨が残っていると、管理者の人も困ってしまいますし、私たちも浮かばれないように気になります。
石文化研究所の故小畠宏充さんは講演の中で、人間が大地に還っていく理由を次にように話していました。「人間は、土から生まれたものを食べて大きくなってきました。だからこの身体が亡骸となったときに、その故郷である土に還そうとするのです」と。土に還さないことで浮かばれない気持ちになってしまうのは、私たちの細胞レベルによる反応なのかもしれません。
最後の受け皿はやっぱり土と石
死者供養をする上で、遺体や遺骨の扱いはきわめて大切な問題です。私たちはそれらを土に還し、そしてそこに故人が眠っていることを示すために、墓石を置くのです。なぜ多くの永代供養墓に石塔が用いられるのか。それは、石の強さと重みが、私たちに安心感を与えてくれるからに他なりません。雨や風にさらされてもびくともしないのが、石の最大の強みです。
私たちが亡くなったあと、亡骸は時間をかけて自然へと還っていきます。その長い長い時間を守ってくれるのが、まさに石の力なのではないでしょうか。納骨堂や樹木葬。私たちの心に安らぎを与えてくれるこれらのお墓は、まさに新時代のものですが、それでも最後はやっぱり、土と石なのです。