私たち日本人は、当たり前のようにお墓を建てて、亡くなった方の遺体や遺骸を供養してきました。そのお墓の源流が、インドのお釈迦様にあることをご存知でしたか?
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お釈迦様が弟子に遺した言葉「ストゥーパを作りなさい」
お釈迦様の最後の様子が描かれた経典に『大般涅槃経』というものがあります。この経典の中では死を目前にした弟子たちに向けて語られたブッダの言葉が書かれています。自分の遺体をどのように処理すればいいか、弟子のアーナンダに次のように説いています。
アーナンダよ。世界を支配する帝王の遺体を処理するのと同じように、修行完成者の遺体を処理すべきである。四つ辻に、修行完成者のストゥーパをつくるべきである。誰であろうと、そこに花輪または香料または顔料をささげて礼拝し、また心を浄らかにして信ずる人々には、長いあいだ利益と幸せとが起るであろう。(中村元訳『ブッダ最後の旅』)
ここで言う「修行完成者」とはブッダ、すなわちお釈迦様のことです。また、ここで書かれているストゥーパこそが、いま私たちが知っているお墓の原型なのです。
形を変えて残っていくさまざまなストゥーパ
ストゥーパは「仏塔」と訳されますが、2500年前のインドのストゥーパは塚、いわゆる土をこんもりと盛り上げた形状だったようです。この中に「仏舎利」(火葬したブッダの遺骨)を納めたのです。やがてブッダの遺骨は周辺8つの国に分けられ、その後世界中に広がり、各地に仏舎利塔が建てられたのです。国内にもさまざまな場所がいまでも仏舎利塔があります。
ストゥーパはチベット、中国、日本へと伝わっていきます。そして漢時代の中国に伝わった時に木造建築の影響を受けたと言われています。日本の古いお寺によく見られる三重塔や五重塔などの「層塔」も、ストゥーパの流れからできたものです。
こうした寺院建築を石の形で表現したのが「五輪塔」です。五輪塔の頂部は、上から順に、宝珠形、半月形、三角形、球形、方形の石が据えられ、これを木の板で表現したのが「卒塔婆(そとば)」です。卒塔婆はまさにストゥーパの音訳であることが分かると思います。
四つ辻にあるストゥーパに誰であろうと礼拝できることの大切さ
お釈迦様は、大切なのはいつの時代も変わることのない真理であるとし、後世の弟子たちが自分自身を礼拝することを禁じました。そして、その真理のシンボルとして、「ストゥーパをつくるべき」としたのです。
ここでのポイントは「四つ辻に」「誰であろうと」という点ではないでしょうか。
四つ辻とは人々が行き交う場所のことです。つまり、誰がもストゥーパに礼拝することが許されている、出家者であれ、在家者であれ、偉い人もそうでない人も、誰もがストゥーパに礼拝してお釈迦様の教えに触れられるということです。
お墓の一番いいところは、野外に置かれているという点です。つまり、家族であろうとそうでなかろうと、その人を偲びたい人はいつでもどこでもお参りができるということです。花を捧げ、お線香を捧げ、心静かに手を合わすことで幸せがもたらされる。お釈迦様はそう説いているのです。
お墓は野外に置かれます。そのおかげで、遺骨を土に還すことができ、遺された人たちは誰であってもお墓参りができるのです。