「墓じまいが進んで、これからは樹木葬や散骨が主流だ」
「若い人たちは供養や宗教に関心がない」
このように思われている方が多いのですが、実際にはこうした考えは先入観に囚われた思い込みのようです。お墓にまつわるさまざまなメディアが若年層のお墓への意識をに関するアンケート調査を行っていますが、実は若い世代ほとお墓やご先祖様の供養を大切にしているという結果が出ています。アンケート調査の詳細と、その結果の背景や理由について考えていきましょう。
目次
エイチームのアンケート調査
お墓のポータルサイト「ライフドット」を運営する株式会社エイチームが行った「親世代・子世代のお墓に対する意識」に関する実態調査(2020)では、大変興味深い結果が示されました。
親世代が「自分が亡くなった後、自分の遺骨をどのようにしてほしいですか」という問いに対してもっとも多かった回答が「散骨」(26,4%)でした。
一方、子世代が「親が亡くなったあと、自分の親の遺骨をどのようにしたいのですか」という問いにもっとも多かった回答が「従来の墓石のお墓」(33,6%)だったのです。
ちなみに親世代の「従来の墓石のお墓」は全体の4位(14,3%)、子世代の「散骨」は全体の3位(11,9%)で、それぞれの意識がクロスしていることがわかります。
さらに、「お墓を選ぶときに重視する項目」として、親世代は「費用」(17,6%)だったのに対し、子世代は「アクセス」(14,0%)で、子世代がお墓参りのしやすさを重視しているものと思われます。
エイチームが実施したアンケート調査の詳細はこちらをご覧ください。
全優石のアンケート調査
もうひとつ面白いアンケート調査があるのでご紹介いたします。全国約300社の石材店で構成される一般社団法人全国優良石材店の会(以下;全優石)が2018年に行ったインターネットによるアンケート調査では、20代をはじめとする若年層の方が、中高年世代に比べて墓石が必要と考えている割合が高いことが分かったのです。
自分の家族や親族のお墓を建てる際にどの方法を選ぶかを問うた質問への回答で、もっとも多く「一般のお墓」と答えたのが30代男性(65,5%)、次に多いのが20代の男性と女性で、こちらも6割を超えています。
一方で50代や60代の世代では一般墓と回答した人の割合は低く、樹木葬や散骨を選択する人が増えています。
加えて、散骨は20代には人気が低く、世代間による意識の差が鮮明に出ています。
全優石が実施したアンケート調査の詳細はこちらをご覧ください。
若年層に人気の一般墓 その理由を考える
みなさんはこのアンケート結果をどのように考えましたか? この調査結果の理由について考えてみましょう。
親世代が抱えてきたお墓の負担と子への想い
「子供に迷惑をかけたくないから」
終活やお墓の現場でよく聞かれる言葉です。つまり、親世代にとってお墓とは子に迷惑を与えてしまうものになってしまっているのです。
いまの親世代はいわゆる団塊の世代。戦後の日本社会では一日も早い復興が求められ、やがてそれは高度経済成長へとつながっていきます。「金の卵」と呼ばれた地方出身者は都心や大工場への集団就職して日本経済を支えましたが、同時に都心への人口集中と地方の過疎化を招きました。
故郷にあるお墓をどのように守るべきか。この世代の人たちにとっては大きな悩みの種です。住み慣れた街を離れて故郷に帰るわけにもいかず、やむなくこれまでご先祖様を祀ってきたお墓処分して、自分たちの住まいの近くに新しいお墓を構える人が増えているのはそのためです。
墓じまいで大変な思いをした人たちは、次はもっと楽に墓じまいができるようにと、納骨堂や樹木葬が選ぶようになりました。
いまの親世代による「子に迷惑をかけたくないから」ということばからは、時代の空気で故郷を離れた人たちが背負ってきた苦労と負い目が感じられるのではないでしょうか。
自分の死と、あなたの死
一方で、子の世代は親をちゃんと弔ってあげたいと考えます。そしてそのために最も適しているお墓の種類として「石のお墓」を選んでいるのです。
その理由について明確な答えはありませんが、日本で長い年月をかけて根付いてきた石塔による供養が、やはり私たちにはもっともなじみがあるのでしょう。
人は面白いもので、自分のことは適当にしておけばいいけれど、大切な人のことはだいじにしたいと考えるものです。
「どうせ死んでしまう私たちのことは散骨にでもして海に撒いてくれ」ということばには、「その分あなたたちは幸せになってね」という子や周囲の人への裏返しの愛情や配慮があります。
しかし子の立場からすると、「遺骨を海に撒いちゃうと会いたいときに会えない」「大事な親の遺骨をそんなに粗末に扱えない」と考えてしまうものです。
自分の墓と、親の墓。自分の死という「一人称の死」と、あなた(親)の死という「二人称の死」の違いが、親世代と子世代の意識の違いを生んでいるのでしょう。。
親が子を想うように、子は親を想う
親は自分のことを差し置いても子の幸せを願うものです。親にもなると、自分のしたいことを優先するばかりではなく、家族や子供が生活の中心に変わっていくのは誰もが体験したことのあることではないでしょうか。
同じように、子も親のことを想うものです。私たちを産んで育ててくれた親には、痛みや病気などなく息を引き取ってほしいし、あの世でも穏やかに過ごしてほしい、このように考えるものです。
そして、遺された私たちがきちんとお墓参りすることで、会いたいときにいつでも会える。そのつながりの場として墓石がもっともふさわしいということを、きっと20代や30代の人たちは感じ取っているのだと思います。
インターネットの普及は、コロナウイルスの蔓延により、さらに加速していきました。私たちは、遠く離れた場所でも仕事ができ、人々と交流できる時代を生きています。都会にあこがれる必要はなくなりましたし、都市に移住するリスクが顕在化しました。
だからこそ、自分たちが生まれ育った町に残り、家族との時間を大切に、そして親の遺骨を納めるために墓石がいいなと思う若い人たちが増えているのかもしれません。
青空の元、墓石を拭きながら亡き親に語りかける。そのことがいかに贅沢なのかということを、若い人たちは感じ取っているのかもしれません。