以前のコラム記事で、霊園には4つの種類があるというお話をしました。公営霊園、民営霊園、寺院墓地、共同墓地です。その中で、国が霊園の管理者として推奨しているのが公営霊園です。墓地や霊園はもはや公共インフラです。国がどのような指針を打ち出しているのか、くわしくご説明いたします。
目次
そもそも国は、霊園の管理は自治体を原則としている
厚生労働省は、平成12年12月6日に生活衛生局長名で、全国の都道府県知事や中核都市市長宛に指針を通達しています(厚生労働省HPより)。
少し長く、漢字が多くていやになる引用ですが、ポイントになる言葉は太字しましたので、さーっと読んでみてください(ちなみに原文の総文字数は33,000字にも及びます)。
墓地の永続性及び非営利性の確保の観点から、従前の厚生省の通知等により、営利企業を墓地経営主体として認めることは適当ではないとの考え方が示されている。この考え方を変更すべき国民意識の大きな変化は特段認められないことから、従来どおり「市町村等の地方公共団体が原則であり、これによりがたい場合であっても宗教法人、公益法人等に限る」との行政指針にのっとって行うことが適当であり、具体的な運用に当たっては、こうした要件を条例、規則等に定めておくことが望ましいと考えられる。
地方公共団体が行うのが望ましい理由は、墓地については、その公共性、公益性にかんがみ、住民に対する基礎的なサービスとして需要に応じて行政が計画的に供給することが望ましいと考えられること、将来にわたって安定的な(破綻の可能性がない)運営を行うことができ、住民がより安心して利用できることである。このため、例えば市町村が地域の実情を踏まえた墓地の設置等に関する計画を立てる仕組みの導入等も有効であると考えられる。宗教法人や公益法人も非営利性の面では墓地経営の主体としての適格性は認められるが、永続性の面では地方公共団体の方がより適格性が高いと考えられる。
生衛発第1764号『墓地経営・管理の指針等について』
少し長い引用でしたが、要は…
霊園の経営は地方公共団体が原則ですよ。どうしても地方公共団体だけで供給や管理が行き届かない時には、宗教法人も公益法人だったら認めますよ。
といった具合なのです。
墓地や霊園は、もはや公共インフラです
この指針の中で、霊園の経営は地方公共団体がするのが望ましい理由として3つが挙げられています。
●永続性(倒産などせずに長く続く)
●非営利性(霊園経営でお金儲けに走ってはならない)
●公共性・公益性(誰もが安心してお墓参りできる)
この3つの要素を見てみると、霊園がもはや公共インフラ(生活の基盤を下支えする施設)のひとつであると言えるのではないでしょうか。電気、ガス、水道、道路、病院、学校などと、同じレベルにあるのです。
実際に、厚労省の指針の中でも…
「墓地は、国民生活にとって必要なものであり、公共的な施設である」
…と書かれています。
人は必ず亡くなりますから、遺された人は亡くなった人をしのびます。遺体や遺骨の処理(=埋葬)、そして死者の礼拝は人類共通のテーマでした。墓地や霊園はどんな人でも公平平等に、安心して利用できなければならない場所で、だからこそ、墓地経営は地方公共団体が一番適しているのです。
さて、この「永続性」「非営利性」「公共性・公益性」とはどういうことなのか。
ひとつずつひも解いていきましょう。
霊園の永続性 倒産などせずに長く続かなければならない
墓地やお墓は、いつまでもそこに居続け、あり続けなければなりません。
だってそうですよね。お墓というものが、人の寿命より長くそこにい続けないといけないからです。
お墓というのは、亡くなった人と、生きている人が出会う場所です。そして、この生きている人もやがては亡くなり、そしてまた次の世代を生きる人が出会いにやってくる。この世代を超えたつながりを保障してくれなければならないんです(お墓が石である理由もこのあたりにあります)。
いつか倒産してしまう墓地に、誰が喜んで埋めてほしいと思うでしょうか。いつまでもそこにあるということ(=永続性)こそが、終の住処としての信頼を担保しているのです。
しかし、現実的には倒産してしまった民営霊園というのは、あります。住職がいなくなってしまった無人のお寺もあります。
だからこそ、財政的にも組織的にも、一番強くて心強い地方公共団体が霊園の経営をするのが、一番安心なのです。
霊園の非営利性 お金儲けに走ってはならない
公営霊園は、近隣の民営霊園や寺院墓地に比べて費用が安い傾向にあります(一部高い所もあります)。
そもそも公営霊園はその地域に住む住民向けの行政サービスですから、税金で成り立っているわけです。
また、民営霊園や寺院墓地の場合、石材店が指定されていることがしばしばです。この指定石材店制度はメリットもなくはないのですが、基本的には売り手が得をして買い手が損をする仕組みです。
もちろん公営霊園では石材業者の指定など絶対にありません(あったら斡旋収賄になってしまいます)。墓地や霊園は、死者を埋葬して祈るための場所です。非営利性という原則にもっとも適っているのが公営霊園なのです。
公共性・公益性 誰もが安心してお墓参りできる
なんどもくりかえしますが、墓地や霊園は公共インフラです。誰もがその恩恵を享受しなければなりません。
公営霊園は、石材店の指定もなければ、宗旨や宗派も問いません。その地域の住民で、お金を支払い、ルールを守れば、誰もが利用できる公共施設なのです。
民営霊園は、営利を目的とした会社法人が運営に携わっています。宗旨や宗派こそ問いませんが、石材店は決められています。
寺院墓地は、宗教法人が運営しています。そのため、そのお寺の檀家や信徒であることが条件になります。
営利の追求や宗教活動が悪いと言っているわけではありまんし、これらによる墓地経営も認められています。しかし、営利の追求、教義の普及といった活動の目的があるため、民営霊園や寺院墓地はどうしても公共性や公益性を欠いてしまう側面があります。そのため、地方公共団体による経営が原則という指針を打ち出しているのです。
いかがでしたでしょうか?
お墓つくりは公営霊園が一番安心だということを、国も認め、推奨している理由を、この記事を読んでもらえれば誰にでも分かっていただけるのではないでしょうか。
これまで、人気が高い分公営霊園の供給は追いつかず、買い求めたくても倍率が高くて抽選になるなど、取得のしづらさが一番のデメリットでした。
しかし、最近では墓じまいの増加に合わせて、公営霊園でも墓地の返還が増えているようです。
これからお墓を建てようと考えている人は、まずはお住いの地域の公営霊園を検討してみてください。